プロとして今の自分にできること。
片田虎秀プロがダーツプロの資格を取得したのは去年。いざ試合に挑もうとした矢先、新型コロナウイルスの感染対策の影響でプロツアーが中止となった。そんな中で、プロ選手としてまだ1試合も出場していない無名の自分が、このコロナ禍でいま出来ることはなんだろうかと自問自答を繰り返し、たとえば子どもたちにダーツで楽しんでもらうことができれば、少しでも明るく元気になれる時間を提供できるのではないかなどと考えていたようだ。
そんな彼と私が出会ったのは、知る人ぞ知る東京・恵比寿の人気ダーツバー。
片田プロはそのダーツバーの次期オーナー候補である。
たまたま同じプロジェクトを進める同僚とそのダーツバーに行ったとき、共通の知人を通じて片田プロを紹介していただいた。とはいえプライベートだった我々は仕事の話をするでもなく、どこのラーメンが美味しいなどのたわいもない話をしていたが、話題がスポーツ全般の話になった時、偶然、彼のプロとしての真面目な気持ちを聞くことができた。
こういう良い出会いというのは偶然タイミングが重なるもので、ちょうど恵比寿駅の隣にある広尾駅近くの児童館でダーツイベントの企画を進めていた私は、このあたりでダーツ講師をしてくれるプロ選手を探していたのだ。
我々も行政の運営する施設にプロ選手として紹介をするときは、このような活動を1回だけで終わらせるのではなく継続的に続けてくれる選手でなければならないと考えており、何度も遠方から通うには選手も負担となるので、なるべく活動拠点が近い方が理想と考えている。そのうえで、人柄や性格、普及活動に対する気持ちなども把握し、我々としても自信をもって選手を紹介したい。
その点、片田プロとはお店でのたわいもない話のなかでも、人柄の良さや真面目さ、そして内に秘める熱い気持ちは伝わっていたので、後日、あらためて広尾駅近くの児童館の件を相談。快く了承をいただき、今回ついに実施の運びとなった。
広尾駅から徒歩7分の「麻布子ども中高生プラザ」
まずは今回ダーツイベントを開催した「麻布子ども中高生プラザ」という施設のサイトを覗いていただきたい。
麻布子ども中高生プラザ(https://azabu-plaza.jp/)
いままで数々の中高生施設を見てきたが、ここまでオシャレな施設を他に見たことがない。田舎者の私からすると「さすが広尾! さすが麻布!」としか言いようのない素敵な空間である。また近所にさまざまな国の大使館がある影響もあり、利用者も国際色が豊かで、身なりもきちんとしていて社交的な子どもが多いように感じた。
今回のイベントは緊急事態宣言中ということもあり人数を制限して開催となったが、それでも定員いっぱいの15名が参加。子どもたちも最初は緊張していたが、慣れ親しんだ職員さんの進行や、物腰柔らかい片田プロの対応もあり、すぐにその場はほぐれ盛り上がっていった。
そして緊張していたのは片田プロも同じ。初めてプロ選手として紹介され、子どもたちの期待にこたえられるかなど不安はあったみたいだが、そこは普段の接客能力やダーツで培ったメンタル、そして彼の真面目な性格もあいまって、とくにトラブルもなく、とても温かみのある素晴らしいイベントとなった。
今回、参加してくれた中高生のほとんどが「ダーツは何度かプレイしたことある程度」の初心者ばかり。初めてダーツについてしっかり基礎を教わったこともあり、時間いっぱいまで夢中になって投げ続けていたのが印象的だった。今後もこの子どもたちの熱い気持ちが続くよう、施設の職員さんやプロ選手を含め、スポーツダーツプロジェクトに関わってくれる全ての人が一体となって盛り上げていければなと思う。
イベント終了直後、片田プロに取材をしてみた。
イベント終了後、控室で興奮さめやらぬなか片田プロに、今日の率直な感想・印象に残ったこと・子どもたちから学んだことなどを聞いてみた。
「ほんと楽しかったです! 子どもにダーツを教えたことがなかったので、指導能力の見直しもできましたし。こうやった方が伝わるんだなというのを臨機応変に対応しながら。とてもいい勉強になりました。
印象に残ったことや子どもたちから学んだことは“素直に聞く”ということと“吸収の速さ”ですね。自分も含め、やはり大人たちは変な知識とかプライドもあるので、どこから教えればいいのか時々迷うときはありますが、子どもたちは素直でスッと入っていくので、教えやすいし上達もとても早かった。今日ハットトリックをだしたプレイヤーもいましたからね。
あと、こうやって中学生のうちからスポーツ競技としてダーツを真剣に続けたらどうなるんだろう?という興味も芽生えましたね。たとえば仮に自分が教えた子どもがU-22などの大会で、優勝をする姿を想像したら楽しみで。もしそうなったらそれをみて間違いなく泣くと思います(笑)。
あと学校の部活とかでダーツがあればもの凄い成長が早いでしょうね。今のプロの人達ってどうなるんだろうっていう怖さもありますけどね。上位の人は大丈夫でしょうけど、自分のような中堅以下のプロは一気に脅かされるんじゃないでしょうか。まあでもそれが自身の向上にもつながると思うので。ほんと楽しみです。今後もこういう機会があればぜひ続けていきたいと思います!」
我々としても、このような草の根活動を継続させながら、さまざまなメディアに向けて発信を続けることで、スポーツ競技としてのダーツ普及をどんどん加速させなければならない。そんな気持ちが増したイベントであり、彼との素敵な出会いとなった。