小学校にダーツクラブを作ってみたら

 神奈川県横浜市にある森の台小学校。2020年度から放課後のクラブ活動のひとつに「ダーツクラブ」が発足しました。発足から丸2年。現在のダーツクラブの様子や、小学校でダーツに取り組む意義について発起人である田崎誠先生にお話を伺いました。

これまでの森の台小学校ダーツクラブの活動についてはこちらから。

ダーツクラブを発足する「足がかり」

ー発足から丸2年が経過したダーツクラブですが、児童のみなさんから人気はありますか?

 クラブ選択の際に、第二・第三希望でも「ダーツ」を記入してくれる児童が増えてきました。学内にはクラブが13~14つあるんですが、人気は真ん中あたりかなと思います。2022年度は18名がダーツクラブに参加してくれました。

 日ごろ身近にあるものが児童には人気があるようで、バドミントン・卓球・パソコン・イラストクラブあたりが大人気なんです。ダーツはその次くらいに選択されているように思います。

 4~6年生の各学年で最低1名ずつ児童がいないとそもそもクラブが存続できない上に、顧問の人数でクラブ数の上限が決まってくるので、第二・第三希望でも児童に選択されているというのが嬉しいなと思います。

ークラブ発足や、活動継続のために必要なことはどんなことだと思いますか?

 森の台小学校ではもともと「アナログゲームクラブ」から「ダーツクラブ」に独立した経緯があります。この2年間でダーツ経験者を増やしてきたわけですが、クラブの立ち上げは本当に大変なんだと感じました。

 児童の経験のなかに「ダーツ」という選択肢がなければ、そもそもクラブ選択の際に選ばれることもありません。クラブ発足のためには、まずは教員きっかけで働きかけることも大事なんじゃないかと思います。

場所を取らない、費用負担が少ない「ダーツ」

ー学校にダーツを導入する上で、ここがいい! というポイントはありますか?

 せまいところで出来るというのは、かなりの利点だと思います。特に都会の学校は、クラブや部活をする場所がない・学校がせまいというのが大きな悩みなので。

 またクラブの費用がほとんどかからないのも嬉しいですね。初期投資でダーツアイテム一式を揃えてしまえば、その後はメンテナンス程度でほぼ費用がかからないのは大きな魅力です。アイテム自体も価格が手ごろで負担も少ないですし。学校からクラブ費も出ているのですが、他のクラブに比べてると比較的お金はかかってない方だと思います。

ダーツ未経験の先生が顧問に

ー2022年度の活動について、印象的だったことを教えてください

 発足2年目に入り、活動が軌道に乗ったことですね。2022年度は私でなく、ダーツ未経験の教員がクラブ顧問になったんですが、それでも安全にクラブ活動を行えたと思います。

 そもそもクラブ活動というものは、基本的に「児童たちの主体性」を促すための活動です。顧問があれこれ考え指示するのではなく、部長・副部長になった児童が計画を立て、全員が主体的に活動します。活動2年目ということで2022年度は経験者も多くいたので、既存のクラブのように児童全員が主体的に動いてくれて、クラブとしての成長を感じました。

ーダーツ未経験の先生が顧問になられたことで、困ったことなどはありましたか?

 まったくなかったですね。未経験ゆえの問題点も、事故もありませんでした。去年のノウハウがある状態なので、事前に注意点などを新顧問に共有しました。パーテーションの設置や顧問が見守りを徹底するなど、最低限の安全確保さえすれば大丈夫でした。

 どんなスポーツでも危険はつきものですし、逆にチップが尖っていて危ないからこそ、最初に徹底して「危なさ」「正しい使い方」を児童に指導しています。ダーツクラブの第1回目は、使い方の指導をメインに行っています。児童たちもルールをしっかり守れるので、最初の指導をしっかりすれば問題ないと思いました。

運動が苦手な子や、支援級の子も楽しめる

ーダーツクラブにはどんなお子さんがいらっしゃいますか?

 少し前の話になるのですが、アナログゲームクラブ時代の在校生に運動が苦手な子がいたんです。おそらくそれまで運動で褒められたことがなかったんじゃないかと思うのですが、その子がブルに入れたとき、周りの子がたくさん褒めてくれたんですよ。そこからすごく自信がついたようで、次の年には「部長になりたい」と立候補もしてくれました。運動が苦手な子に自信を与えられるきっかけになったし、手軽に始められるのが良かったんじゃないかとも思います。一方で中学校に行って、ダーツができない環境になってしまったのが残念だなと。

 また、特別支援級の児童もクラブに所属しています。体を思うように動かせないなかでも、楽しそうにダーツをしていて、やはり周りの子たちとの褒め合いも発生します。また、個人競技の特性だと思いますが、たとえ失敗しても誰も責めないというのがダーツのいいところだなと思いました。

ーダーツをより楽しんでもらうために何か工夫されたことはありますか?

 点数に関わらず、ブルに入ったらシールを貼って「見える化」するようにしています。見える化することによって、児童たちの自信に繋がりやすいようにしています。

教育面での活用

ーダーツについて、予想外の利点は何かありましたか?

 学校によるのですが、6年生はキャリア教育(職業についての学習)が総合の授業で行います。以前、プロダーツプレイヤーの鈴木未来選手に来校いただいたときに、ダーツ体験会の先生役だけでなく、このキャリア教育の授業で講師もお願いしたんです。

 プロのダーツプレイヤーという職業があることを児童たちが知るきっかけになりました。児童たちの質問も面白かったですよ。緊張癖のある児童は緊張のコントロールの仕方を訊いていましたし、鈴木選手はお子さんがいらっしゃるので子育てや家庭のこととダーツの両立についても話してくれました。鈴木選手に限らず、日本全国にダーツを職業にしている方はたくさんいるので、こういったところで小学校と関わる機会が出来るのはとても良いことではないかと思いました。

 また、2022年10月に行われたスポーツダーツ競技大会で見学された保護者から嬉しい声を聞くことが出来ました。子どもたちが自分の点数をすらすら暗算している様子を見て、「ダーツって算数の勉強になるねー」と仰っていたんです。教職員側がただ「そういう利点があるよ!」と思っているのと、実際に保護者の方から直接印象の変化を聞けるのとでは雲泥の差があるので、そういうお声を聞くことができてとても嬉しく思いましたね。

ダーツの輪を広げる難しさと可能性

ー田崎先生は2022年12月に行われたダーツ議連にも出席されました。何か心境の変化はありましたか?

 前述の児童の話になってしまうのですが、中学校進学でダーツを続けられない環境について歯がゆく思うようになりました。また、他の小学校でもダーツを広げるにはどうすればいいかと考えるようにもなりました。小学校はクラブ活動なので「交流」を目的に楽しく、みんなで一緒にという部分を大切にしていますが、中学校では「部活」になるため、うまく部活動の目的に繋げるにはどうしたらいいか…など、日々考えています。

 また、ダーツを教育現場で広めていく上で思いついたことがいくつかありました。

 まず、ハードルを低くして始めることの大事さです。クラブ設立! となるとハードルがすごく高く感じると思うのですが、算数の新しいやり方として体験会をやってみるのもいいんじゃないでしょうか。親御さんがダーツプレイヤーだというパターンもありますし、学校の懇親会などで提案されてみるのはどうかなと思いました。

 それと、放課後デイサービスや特別支援級にも広めていけるんじゃないかと思います。教職員がそもそもダーツのことを知らないので、ダーツが「障がい者も楽しめるスポーツ」としてとても優秀であることをもっとアピールしていくのも有りかと思います。

 さらに、前述のとおり日本全国にプロダーツプレイヤーはたくさんいます。プロの人をどんどん巻き込んで、地域と繋がって…という流れが出来上がったら素敵だなと思っています。


 小学校のクラブ導入において、たくさんの知見をいただきました。これから小学校でダーツを導入したい! という方もぜひ参考にしていただければと思います。

この記事を書いた人

へんしゅうちょう

編集長に任命され、ありがたく拝命したところ、名刺をよく見たら役職名が「いぶりがっこ編集長」でした。出身地はお察しください。米がうめぇ。